2月4日に行われた浄青僧本山総参拝のレポート後編です!
(前編)
京都の仏具職人さん方に仏具の制作についてお話を伺っていきました。
1人ずつのインタビュー、5人目は彩色師(さいしきし)の八木則行さんです。(写真上段 左から2番目)
彩色師とは、仏像や仏具(須弥壇、前卓)など彫刻されたものに彩色を施される職人さんです。襖絵や天井絵なども描かれています。
―彩色は特別な絵の具を使われるのでしょうか?
「古代より伝わる顔料(岩絵の具)を使用しています。経年劣化による退色がほとんどありません。
大変なのは石を砕いて色を作るので、全く同じ色は二度と作れないことです。最初に作った絵の具だけで書かないと色が変わってしまいますから。
岩絵の具は大変高価なものです。これだけあれば足りるだろうと、少し余分に作っていないといけません。少々勿体ないですが、足りなくなったら大変ですから(笑)」
色の継ぎ足しはNGなんですね。「二度と同じ色は出せない」色もすべて一期一会なのだとお聞かせいただきました。
(色鮮やかな岩絵の具)
(彩色を施す八木さん)
―もともと子どもの頃から絵が好きだったりされたのですか?
「絵や美術品を見るのは好きでしたね。特に絵画はよく見ていました!
しかし日本画はあまり見ていなくて、西洋画ばかりみていましたので、それを知っている人からは、『天人さんには天使のように羽根を描くなよ!』と言われてました(笑)」
(※天使は背中から羽根が生えていますが、仏教に説かれる天人は羽根はなく、羽衣で空を舞うのです。)
(八木さんが彩色された聖徳太子像)
こちらの聖徳太子様の着物の模様は盛り上がっているように見えますが、これは砥の粉を膠(にかわ)で溶いたものを使われているようです。大変細かくも立体感があって素晴らしいですね!
上の模様一つを見ても分かるように彩色師のお仕事は本当に繊細な作業です。想像を絶する集中力が必要となるでしょう。
またお話を伺ってみて、八木さんが施された彩色や絵それぞれに八木さんの優しいお人柄が表れているように感じました。
続いて6人目は蝋型鋳物師(ろうがたいものし)の山崎誠一さんです。
(インタビューに答える山崎さん)
―蝋型鋳物とはどのようなものなのですか?
「蝋型鋳物とは、最初に蝋で型を作って、土で覆いかぶせて包み乾燥させたのち、炭と松割り木で焼き、蝋を流し出します。その隙間に溶かした金属を流し込んで作っていきます。
そして鋳物ができると、ヤスリや研石で仕上げます。
鋳物師は他にもたくさんいますが、蝋型でしている人は少なくなっています。」
(型に金属を流し込まれているところです)
―山崎さんは蝋型鋳物を多くの人に広めたいという思いを持たれているとお聞きしましたが、鋳物を蝋型でする利点を教えてください。
「蝋型は古い技法なので、この先も残していきたいと思っています。やめていかれる人も多いので。
良さと言えば、蝋のそのままの味が出ることです。蝋のやわらかさがそのまま金属に現れてきます。蝋に指紋が付いたら、金属にそのまま指紋が出るほどです。」
(蝋型鋳物 山崎さんの作品です)
―蝋型鋳物を製作中一番楽しいのはどこでしょうか?
「やはり蝋を練っている時が一番テンションが上がりますね。飴細工のように柔らかく、本当に手触りが良いんです!」
―蝋型鋳物のここを見てもらいたい!という所は?
「金属は冷たいイメージがありますが、金属そのものが持っている色や、金属それぞれの結晶を、そのまま出せるのが蝋型の特徴です。ですから、ぜひ近くでじっくりと見ていただけたらと思っています。」
(仕上げをされる山崎さん)
鋳物の中でも「蝋型」という種類があることを今回初めて知りました。
金属そのものにも「目」があり、「結晶」がある。金属なのに生まれる「あたたかみ」があるのですね。初めて聞くことばかりではありましたが、蝋型の鋳物の魅力が伝わってきました。これからお仏具を見る時注目していきたいです。
物静かで穏やかな山崎さん、職人の皆さんからは折々につっこみを入れられる愛される方でありました。
同時に、職人の数が少なくなった蝋型技法を多くの方に、そして後の時代に「伝えていくぞ」という熱い思いを秘めておられるようでした。
いよいよ8番目、インタビューのとりを飾るのは、錺師(かざりし)の合場賴正さんです。
これまでも他の職人さんのインタビューの時に、つっこみを入れて笑いをとっておられました!
―錺師とはどのような作業をされるのでしょうか?
「もともと錺師とは二つの分野に分かれていました。彫金師(ちょうきんし)という金属の形を整える作業をする役。もう一つは仏具などに錺(かざり)をつける作業をする役。今はこの両方をしています。」
(この写真の柱などには合場さんが施された錺が付けられてあります。)
―そもそも錺とはどのようなものなのですか?
「お仏具などの金属に型を押して錺をつけていきます。たとえば魚々子という点を打つような錺は大変細かいものです。
どれくらい細かいかというと、1mmに2個点を入れろと言われるくらいです」
くらくらするほどの細かさです!!
―錺(かざり)のトレンドというものはありますか?
「実は錺そのものは昔から全く変わりません。しかし、時代の移り変わりによって、錺を打つお仏具など本体の形が変わってきています。
また最近は、どの宗派のお寺にしても錺というものは商業ベースの簡略化されたものではなく、『御本山と同じ物を求めたい』というお声をよく聞きますね。時代は原点回帰ということでしょうか。」
(錺を打ち付けられていく合場さん)
(合場さん製作 柄香炉)
―8名の新進気鋭の仏具職人の中で、合場さんがリーダーのように伺いました。どのようにこのメンバーをまとめられているのでしょうか?
「普段から切磋琢磨しています。まとめるということではないですが、言ってみれば飲んで仲良くなる(笑)
皆良いやつばっかりです。いつも話していると凄く楽しい、だから良いものができてくるんです」
今回の研修会を行う前に、一度打ち合わせをさせていただいたことがありました。なんと打ち合わせ場所の机にはたくさんビールが並んでいてびっくりしました(笑)
皆さんお酒も豪快に飲まれます。お酒の場の楽しいエピソードも多々聞かせて頂きました。
また打ち合わせの時や、当日リハーサルの時も終始笑いが溢れ、まさに「チーム」であると思いました。
職人さんはお仕事をされるとき個人個人の孤独な大変な作業でしょう。しかし、だからこそ職人さん同士にしか分からないご苦労を共有したり、情報を交換したりするお酒の場は、本当に大切な時間なのかもしれません。
(インタビューは、備龍会の枝廣と佐藤が、○上がり決死隊のごとく怒涛の質問を行っていきました!)
次は、会場の参加者(青年僧侶)からの質問にお答えいただきます。どの質問もお答えも深く、味わい深いものでした。
―私たちがお寺に生まれてお寺の後を継ぐことが多いように、職人さんの家業を継がれた方が多いと思います。お父さんやお祖父さんを見て、どこから楽しさや遣り甲斐が分かったか、エピソードをお聞かせください。
須藤さん「仏師として遣り甲斐を感じるようになったのは、仏さまを彫ってお寺に入れさせてもらったら涙流されて喜ばれたことにあります。それを見たらもっと頑張らないといけないと自然と思います。その繰り返しで今があります。」
中井さん「今ちょうど、自分の子どもに自分の職を継がすかどうか考えているところです。私は自分でこの職(木彫師)に飛び込んだので。その人自身の特性がその職に向いていないと、できないような時代になってきたと思います。」
牧野さん「うちは自宅で、仕事と生活が一緒でした。父が扱う漆の匂いは正直言って臭い。子どもの頃は絶対父の仕事は継がないと思っていました。でも就く仕事就く仕事続かないんです。
なぜかというと、頭のどっかに『これがダメでもおやじの仕事につけば良い』という甘い考えがあったんです。塗師という職についてその考えはひっくり返りましたが。
最近息子が『お父さんの後を継げばいいんだろ』と言いだして(笑)」
―昔の作品を通して、何か感動したり、作られた方のメッセージを感じたりすることはありますか?
山崎さん「蝋型鋳物師をしていたおじいさんの作品を見ると、めちゃめちゃ綺麗ということではないが、何とも言えない味があります。今のものは綺麗でも、味はおじいさんの方があると感動しました」
八木さん「お寺の格天井は、本願寺の白書院もそうですが、萎れやすい花には水を含ませた紙で茎を巻くよう描かれたり、花以外に昆虫が描いてあったり、遊び心やいのちを大切にする心が描かれていることがありますね。」
(八木さんが彩色された天井絵)
―西洋などの文化と比べて、日本の仏具や美術品独自の味、特徴は何でしょうか?
中井さん「日本は島国であり、四季があります。他の先進国にはない物が日本の仏教や伝統の中にあるのではないかと思います。
たとえば、日本自然豊かで自然の中に暮らしています。そして日本人は大変『木』を大切にしています。これほど木が育つ国もなかなかないでしょう。」
「自然」の中で生きていることを自覚している作品が多いのかな、「木材」を使った仏具にもその精神が根付いているのだな、とお話を伺って考えました。
「また、日本人の『まじめさ』から出てくる逆転の発想の面白さもあるのではないかと思っています。」ともおっしゃいました。
(このお仏具は蝋型鋳物で、山崎さんが製作されたものです。
真面目さとユーモア。確かによくみるととても可愛い、おもしろい)
(休憩時間も、直接仏具を見ながら職人さんからお話を伺いました!熱帯魚からデザインのインスピレーションを受けるという中井さんに「私も熱帯魚好きなんですよ!」と話が弾む場面も。)
ワークッショップ『箔押し体験』
続いてはいよいよお待ちかねのワークショップの時間です。
箔押師の清水さんのご指導により、香盒(お香入れ)に金箔を押していく体験をしていきました。
手順としては、御香入れの蓋に漆を塗り、塗った場所に金箔が貼られていくということです。
皆さん、和気あいあいと、しかし真剣な表情で作業をしてくださいました。漆を塗って金箔を押していきます。
しかし簡単な作業のように見えますが、あなどることなかれ、とっても繊細で難しい作業なのです!大変細かな作業で手先の器用さや、センスが問われるのです。
ちょっとした風、たとえば鼻息で金箔は、ずれてしまいますし、漆を隈なく塗らないと金箔がうまく押せないのです。)
皆さん集中して、オリジナルの御香入れを作っておられました!
さすが、会長!バッチリ仕上がりました!
充実したワークショップになりました。
『手業ー職人に支えられた仏具の世界ー』研修会を終えて
前後編に渡ってレポートしてきました仏具職人さんへのインタビュー、いかがだったでしょうか?
実際にお話を聞かせていただき、私自身日ごろ僧侶としてお仏具に接していたのですが、見方が変わったように思います。
月並みな表現ですが、妥協されることない匠の技に「これほどまでにご苦労があったのだな」と本当に頭が下がりました。
しかも皆さん最高峰の技術を持ちながら、現状に決して満足されておられず、まだまだこれから自らの技術を高めていこうとされています。
今まで受け継がれて来た伝統を守りつつ、今の時代に応じた作品を作り続けていくことは、本当に大変なことと思います。
次の世代に伝えていかねばという「責任感」と「熱い意思」を、御言葉の端々から感じずにはおられませんでした。
同じことが私たち僧侶にも言えるのでしょう。
この研修を受けて学んだことは、お仏具についてだけではなく、職人さんのその姿勢だったようにも思います。
私たちも、若手僧侶ならではの熱意とチャレンジ精神を持って、いつの時代も決して変わらない仏さまのみ教えを、様々な手段を持ってお伝えしていく努力をしていかねばと思いました。
私たち備龍会は今回本山総参拝の研修会を行うにあたり、進行についても試行錯誤して、昨今流行りのバラエティー番組に習ってひな壇形式にしました。
職人の皆さまはその意をくみ取ってくださり、立派なひな壇まで手作りで用意してくださいました。また研修の中では、「笑い」「ユーモア」をふんだんに踏まえてお答えくださいました。
無茶ぶりにも近いような質問をしたりもしましたが、どのインタビューにも真摯に、私たちに分かりやすいようにお答えいただきました。
参加者の皆様も、頷きながら聞いてくださって、あっという間の時間だったように思います。
長い記事となりましたが、皆さまもこれからお寺の仏具をご覧になるときに、匠の技とそこに籠められた思いを感じていただけたら、より身近に、より深くお寺やお仏具が味わえるかもしれません。