ある年の夏、アメリカシアトルの空港でこんな事がありました。
入国審査の際、順番が来たので、入国審査官にパスポートを渡しました。すると、その審査官が「BCA(米国仏教団、Buddhist Churches of Americaの略)のMinister(聖職者)?Jodo Shinshu?」と聞いてきました。まさかこんなところで、「浄土真宗」という言葉を聞くとは思っていなかったのでびっくりしましたが、同時にとても嬉しくて、笑顔で「Yes! 浄土真宗!」と答えました。話を聞くと、その審査官の友人が浄土真宗の僧侶(私と同年代の白人開教使)だから、浄土真宗は知っているとのことでした。
私がなぜシアトル空港にいたかというと、実は2008年から2017年までの10年間、米国仏教団(アメリカ本土)の開教使(本山から派遣され、海外で布教活動する僧侶)として、ロサンゼルス別院で3年間、その後、シアトル近郊のタコマ仏教会で7年間、お勤めさせていただいていたからです。
実は、アメリカ本土には約60の浄土真宗本願寺派のお寺があり、約45人の開教使、1万数千人の門信徒(アメリカではメンバーと言います)がいます。その多くは、ロサンゼルスやサンフランシスコなど、日系の移民が多く住んでいるアメリカ西海岸にあります。他の宗派のお寺もありますが、日本からの移民は広島や山口、熊本など、浄土真宗の門徒が多い地域の出身者が多数で、本願寺派のお寺も、他の宗派に比べて非常に多くあります。
1889年に、アメリカ本土で最初の本願寺派のお寺が、サンフランシスコに建てられて以来、日系人が多く住む町に次々とお寺が建てられ、毎週日曜のサンデーサービス(日曜礼拝)だけでなく、日本の食べ物や映画など、文化が楽しめる場所、日本人同士が日本語で話せる場所として、日系人コミュニティーの中心でした。
最近ではアメリカ人にも禅を中心に、平和的なイメージのある仏教がブームで、英語の仏教関係の出版物の増加、インターネットなどにより一般のアメリカ人にも広く理解され、非日系の方も多くお寺に訪れ、お寺のメンバーになる人も増えています。ハリウッド俳優のリチャード・ギアはチベット仏教を信仰していますし、アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズも禅堂で座禅をするなど、仏教の影響を強く受けています。ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの中の「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、愚かであれ)」という言葉は、仏教の教えが元になっていると言われています。
アメリカのお寺は、日本に比べると歴史が浅いですし、アメリカ人の自由な国民性もあり、日本のお寺とはまた違った雰囲気があります。例えば、いわゆる総代さんは、半分近くが女性で非日系のメンバーも積極的に参加してくれます。また、コスチュームを着て参加するハロウィン日曜礼拝やキリスト教の宗教者などとの宗教間対話会などがあったり、子どもの日曜学校、瞑想会、バザー、ObonFestival(盆踊り)、映画を見て仏教を学ぶ会、地元大学の仏教学教授(お寺のメンバー)による仏教講座など、色々な行事があり、様々な人がお寺に来られます。州によっては同性結婚が認められているので、その結婚式を司婚することもありました。
また、私が勤めていたタコマ仏教会の日曜礼拝には、子どもも含め毎週60~70人のお参りがあり、初めてお寺に来られる方もいて、多い時にはお参りの半数近くが非日系の方の時もありました。お勤めは日本と同じですが、法話などは英語で行われ、言葉の壁を超えて多くの方が教えを聴聞されています。このように、仏教はアメリカでどんどん広がっているのです。
アメリカ、ハワイ、カナダ、ブラジル、ヨーロッパなど、浄土真宗のお寺は世界各国にあります。機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてください!
執筆者 柿原興乘