2016年2月4日(木)浄土真宗青年僧侶連絡協議会(以下、浄青僧と略します)の二年に一度の本山総参拝が、備龍会担当で行われました。
浄青僧とは、全国各地で活動する青年僧侶の会が、それぞれの活動を報告しあい、親睦を深める場です。
今回は当日の様子をレポートします。
浄青僧に加盟する北海道・東京・高岡・山陰・備後・安芸・福岡の7団体の青年僧侶、約100名が集まり、御影堂で参拝式を行いました。
備龍会会長の大淵英範がご挨拶いたしました。
「ご門主さまと同世代の僧侶として、ともにご法義伝播に勤めさせていただけますよう、これからも研鑽していきましょう!」
今回の研修テーマは「手業(てわざ)ー職人に支えられた仏具の世界ー」
京都の伝統工芸士(木地師・仏像彫刻師・木彫師・塗師・箔押師・彩色師・蝋型鋳物師・錺師)の職人方に青年僧侶がインタビューしていきました。終始笑いと拍手が沸き起こる、活気あふれる研修会となりました。
某トークバラエティ番組風のオープニングムービーに続いて、登場していただきました!
ー今日は何のくくりですか?
「僕たちは京都の仏具職人です!」
職人さん方が座られた立派なひな壇も、この日の為だけに作ってくださいました。 本当に多くの貴重なお話を伺いましたが、今回はその中の一部を紹介します。
トップバッターは、木地師(きじし)の泉嘉人さん。木地師とは仏さまの卓やお厨子などの木地を製作される職人さんです。西本願寺の前卓の修復にも関わられています。
(作業中の泉さん)
実際に、御本山と同じ様式で作られている前卓を持ってきてくださいました。この足の部分に注目です!
仏具作製のご苦労をお伺いすると、具体的にこの太い足の丸味を彫るのにも大変な時間と手間がかかるそうです。
ーお仏壇やお仏具を製作するにあたって、大変なことは何ですか?
「製作期限を守ることです。お寺の御内陣は、職人がリレーで作り上げていくもので、一人一人が責任をもって次の方に渡していくチームプレーです。自分が遅れたら、次の塗師(ぬし)や箔押師(はくおしし)に影響が出てしまいます。ですから責任があります。でも、お仏具は代々お寺に残っていくものです。だからこそ、仕事は決してごまかすことができません。」
ーそれでは、心がけていることがあれば教えてください。
「世の中はスピーディでかつ安いものを求められています。そんな今だからこそ、大切にしていることは『妥協しないこと』です。手間を惜しまない。簡単にすることに流されない。なぜならお寺さんの宝になるもので、皆さんが手を合わしていくものですから。」
ーこれからの目標を教えて下さい。
「我々職人は最低10年続けてやっとスタートできます。私たちもまだまだです。しかし、次の時代にこの技術を繋ぐということが使命と思っています。これをなるべく絶やさないようにしたいです。」
泉さんからお話を伺い、私たち青年僧侶も同じように、精一杯おみのりを伝えていき、次の時代に繋ぐことが大切であると改めて考えさせられました。
(左:須藤さん 右:中井さん)
2番手は、仏像彫刻師(ぶつぞうちょうこくし)の須藤隆さんです。仏像を彫られる職人さんです。
なんと今回の会場である安穏殿のご本尊阿弥陀様は須藤さんが彫られたものなのです!
ー仏さまを彫られて、手を合わせる礼拝の対象になることについて、どんな風に感じますか?
「仏像をご依頼くださる方の意向を大切にしています。そして特に仏さまの目線を大切にしていいます。」
実は仏像の眼の部分には水晶など宝石が入っているのです。その宝石お顔の表ではなく、裏から入れるのが大変難しいらしく、お顔の薄い表面部分が破られたら終わりという、もの凄く細かい作業です。そこまでのご苦労があったことは初めて知りました。
また、仏像彫刻士さんが彫られる仏様のお顔にはそれぞれに特徴や個性が表れていて、仏像を見るとどの仏像彫刻師の方が彫られたものかは大体分かるそうです。
(京都マンガミュージアムの火の鳥も、須藤さんが彫られたものです!)
須藤さんには大変穏やかにお話しいただきましたが、本堂のご本尊を作製されるにあたってのきめ細やかで繊細な作業には、私たちのはかり知れないご苦労がこめられていると気づかされました。
続いては、木彫師(もくちょうし)の中井伸明さんです。
木彫師とは、仏さま以外の彫刻を担当されます。彫刻の前には絵も描かれます。中井さんの彫られる文様は、昔から守り伝えられてきた型を描いているそうですが、依頼主さんにオリジナルの文様を求められているとそのように作られるそうです。
―オリジナルの文様を作る時は、何かを見てインスピレーションが湧くのでしょうか?
また日ごろから感性を磨くために、何か見たり、されたりしていますか?
「熱帯魚が好きなので飼っています。水草やサンゴも好きです。昔の彫刻などを見ていると、深海魚からデザインのモチーフを取られたものがあります。生き物からデフォルメしているんです。先人も、花や動物や昆虫などからデザインを作られているような気がします。」
―この時代の彫刻を見てほしい!というものはありますか?
「江戸末から、明治の彫刻は技術的に凄いです。誰もが見て圧倒的に認められるのはその時代です。しかし同時に大切なのは、私たちの、見る目が変わるということです。若い時何気なく見ていた彫刻を、最近見るとわーっ凄いと思うことがあります。私の見る目が少しは良くなっているのでしょう。私たちがこれからやって行かなければならないことは、それに負けないことをしていかないといけないということです。最後に皆さんに一番に言いたいのは、見る目を養うことが大切ということです。」
(丁寧に彫られています)
中井さんはご自身の職に対するこだわりについて熱く語って下さり、ひしひしと胸にくるものがありました。
(前列 右:牧野さん)
続いては塗師(ぬし)の牧野俊之さんです。お仕事はその名の通りお仏壇やお仏具に漆(うるし)を塗ることです。
漆は大きく分けて二種類、国産と中国産があり、現在ほとんど中国産だそうですが、値段はとても違うそうです。
ー漆を塗っていくのには、季節や湿度などが関係してくるのでしょうか?
「簡単に言いますと、洗濯物が今日はよく乾くなという日は漆は乾かないんです。漆は湿度がある時に乾きます。だから梅雨時期は漆が乾きすぎるので逆に塗れないんです。すぐに乾いてしまうので。」
(漆って不思議ですね!)
また漆は様々な色があります。漆屋さんに塗師が依頼して、朱色、うるみ(べんがらという岩料を混ぜる)など、調合して作ってもらったものを使うのです。
ー漆は時間が経つとどう変化していくのですか?
「 時間が経つにつれて漆の色はだんだん変化していきます。まただんだんと岩料の色が出てより明るくなってくるというか、岩料の色が透けてきます。」
つきつめれば、1秒たりとも同じ色はないのです。「諸行無常」という仏教に説かれる理を感じさせられました。
また漆もそうですが、牧野さんいわく、本物の仏具というものは「時代が経って、古くはなるけど、悪くなることはない」とのこと。
それだけの責任を伴う作業をされていることを伺い、私も自然と背筋の伸びる思いがしました。
牧野さんは、テレビに出てくる芸人さんのように本当にお話が上手くてオーラがあり、その魅力に引き込まれました。
前半最後は清水ひろみさんです。清水さんは箔押師で、仏像や仏具に金箔を押していかれます。
金箔は木材でも、金属にでもその上に押せるそうです。
金箔には「断ち切り」と「縁つき」と大きく分けて二種類あるそうです。前者は金箔を重ねて一気に正方形に切り、後者は一枚一枚丁寧に切っていくもので大変高価になるとのこと。
ー浄土真宗は金仏壇で特に金とはかかわりが深いですが、金の良
さはどういう点がありますか?
「金色というのは、私たちの普段の中にはないです。一般家庭には溶け込みません。ですから、インパクト与えたいところ、特別なところに金箔を押します。それで非日常をあらわすのです」
(清水さんが金箔を押された空殿)
確かに金色のお仏壇そのものが家の中心で、阿弥陀様がいらっしゃる特別な空間だったのですね。
そしていつの時代も変わらない光、輝きが金色で表してあり、どんな時も私たちを支え続けてくれているのだと味わいました。
ー変わったものに金を押した経験はありますか?
「部屋全体です。金箔の部屋に入ることができますよ。」
東京の箔座というお店では、金箔の茶室に実際に入ることができるようです。豊臣秀吉の気分が味わえるかもしれません!!
以前清水さんが師匠の下にいらっしゃった時は、金箔が飛ばないように、夏の暑い時期もクーラーも扇風機も使わずに汗が流れる中で作業されていたようです。
今は工夫があるのでしょう。クーラーつけておられるようです(笑)
清水さんには後半の参加者全員によるワークショップ「箔押し体験」でもう一度ご登場いただきます!
しかしこの時点では、箔押しの大変さを後に思い知ることになろうとは、誰も思っていませんでした...。
(後編に続きます)