以前、とある研修中、余談として興味深いお話を聞かせて頂いたことがあります。それは「ウルトラマンと浄土真宗」についてネット上に掲載されたある論文の簡略な紹介でした。その論文内容は、ウルトラマンの設定や物語と、浄土真宗という仏教に類似する点が多くあり、
「ウルトラマンには、浄土真宗の宗祖親鸞聖人の思想がその背景にあるのでは!?」
「円谷英二氏には浄土思想の素養が!?」
といったもので、無論そこまで飛躍するのも問題が出てくるので、講師曰く「決して正しい説とは言えませんが面白いのであくまで余談として紹介します…」と前置きされた上でご紹介くださいました。
というわけで、当コラムも比較部分はあくまで余談としてご一読くだされば幸いです。
さてウルトラマンといえば、言わずと知れた円谷プロによる特撮ヒーローであり、現在でもTVで活躍中のアニメ・コミック・グッズ・ゲームなどで大人気のスーパー変身ヒーローです。この物語の基底にあるものは、怪獣といった敵に対して「♪光の国からぼくらのために♪※1」地球を「救済」しに正義の味方がやってくるというものです。
科学特捜隊のハヤタ隊員が調査飛行中、宇宙から飛来した謎の赤い光(ウルトラマン)と空中で激突し、死亡した正にその時、赤い光に包まれてウルトラマンとして再生したその瞬間、ハヤタ隊員の行為や意志に関係なくウルトラマンの方から一方的に「いのち」が与えられる… その後のハヤタ隊員=ウルトラマンの活躍はご承知の通りですね。
要するに、ウルトラマンによる人類に対する一方的な不思議な肩入れであり、ハヤタ隊員と縁あって「光の国」から来たウルトラマンが、勝手に怪獣や宇宙人と闘って人類を救済してくれるというわけです。
類似点をいくつか…、
≪ウルトラマン≫
①この物語には光の彼方から常に見守り身を賭して救済するという理想が横たわる
②ここでいう「光の国」とは地球から300万光年離れたM78星雲のこと
③ハヤタ隊員が死亡と同時にウルトラマンによりいのちが与えられ、そのまま人類の救済にはしる
※2
≪仏教≫
①仏教に説かれる物語は、苦しみにあえぐ生きとし生けるもの(衆生)を救済するために、仏さまが手を尽くし、そのうえ自らを犠牲にして衆生を救う。
②仏教における阿弥陀如来の西方極楽浄土も「光に満ち満ちた仏国土」といわれ、そこは十万億仏土を越え離れた西方と説かれ、さらには阿弥陀如来も「無量光仏」「無碍光如来」など様々な「光」で表現される
③浄土真宗で示される所の往生即成仏、つまり「どなたであっても、この世の縁が尽きるとき浄土(光の国)に生まれ、同時に仏としてのいのちをめぐまれて、そのまま娑婆にかえり来て人々を教化(救済)する」
他にも「ウルトラサイン」なるものと仏教の「梵字」の酷似※3など、多くの類似点があるようですが、すべては紹介しきれないので興味のある方は文末の参考資料をお開きください。また、「類似」とは「イコール」では無いこともご承知ください。
以上いくつか類似点を挙げてみましたが、何より興味深いのは、そもそも地球人とは何の関係もない「光の国」から来たウルトラマンは、その後も、
ウルトラセブン → 帰ってきたウルトラマン → エース → タロウ → ~中略~ → ギンガ → フロンティア → ギンガS → X → オーブ → ゼロ → ジード → ルーブ・・・
と名を変え、すがたを変え、地球に現れては人類のためにいのちを賭して闘い続けるという所にあります。それは、容姿、形を変えながらも人類を救い続けるヒーローとして2018年現在も活躍を続ける(放映中)すがたです。
お念仏に出遇った人は、この世にあっては個別の名を持ちながらも、いのち尽きて往生するとき既に衆生を放っておけない阿弥陀さまと同等の仏さまというすがたをとってこの娑婆へ巧みに顕現なさいます。このすがたこそ「南無阿弥陀仏」というあらゆる功徳の備わった「名」のすがたです。まさにすがたを変えながらも必ず娑婆に還(かえ)りきて、絶えず我々へ教化のためにご苦労を重ね続けてくださる仏さまです。
私にとっての仏さまはどんなすがたなんでしょうか。
阿弥陀さまはお名乗り出た南無阿弥陀仏(お念仏)です。「南無阿弥陀仏」称える時、そこにはすでに自らも仏さまとなって生き続ける亡き祖父母や身近な人をはじめとした先達から、私への縁つなぎが完成されていたのでしょう。先立った人を想うとき、その人と私との関係は現在進行形で続いているのです。亡き人の仏さまとしての仕事はもう始まっていました。
過去ではなく現在も生き続ける「終わりのないいのち」、南無阿弥陀仏といいます。
筆者 那須 智雄
≪参考資料≫
※1 『ウルトラマンの歌』日本コロンビア
<作詞:東京一 作:宮内圀郎 歌:みすず児童合唱団、コーロ・ステルラ>
※2 『ウルトラマンに観る親鸞思想-「光の国」と「往相還相」』 レルネット <三宅善信氏>
※3 『マイ仏教』新潮新書 <みうらじゅん氏>