「仏法領の物をあだにするかや」~蝋燭アーティストへの道?~

お荘厳に欠かせない”蝋燭”は仏さまのお心を表しているともいわれます。
“光”によって迷いの闇を晴らす智慧の光明、そして”ぬくもり”は固まった私の心を解きほぐしてくださるお慈悲といただくことができます。
また蝋燭を命と喩え、「いつ風が吹いて消えてしまうかもわからない今を生きている」ともお聞かせいただきます。

この蝋燭の種類は、「和蝋燭」と「洋蝋燭」に分けられますが、それぞれに特色があります。私個人としては仏事では「和蝋燭」を好みます。理由は色々とありますが、一番は火の高さと揺らぎです。
「和蝋燭」はハゼの実から摂取したロウから作られるもので、芯にはイグサや和紙が使われます。大きくゆらゆらと揺らぐ炎はなんともいえない情緒があります。

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(和蝋燭金色・・・金蝋燭は慶讃法要・仏前結婚式などに用います)

しかし、和蝋燭はある程度燃焼するたびに、芯を切らなければならないという”メンテナンス”の面や、それに伴う”扱い”への注意、また”高価である”等の理由から、私のお寺では日常のお勤めは主として「洋蝋燭」を使っています。

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(洋蝋燭白色、和蝋燭と比べ炎の高さが小さく揺らぎが少ないです。)

蝋燭はすべて燃え尽きるまで使うことが好ましいのでしょうが、お寺ではどうしても使いきることができないものが出てきます。それを”残蝋”と呼んでいますが、残蝋が次第に溜まってくるので定期的に対応しなければなりません。
そこで、普段使う機会の多い「洋蝋燭」の「残蝋」を使って、蝋燭(キャンドル)を製作するようになりました。

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本願寺の第8代宗主蓮如上人というお方は、ある日廊下に落ちていた紙切れを拾い両の手で押しいただかれたそうです。そして「仏法領の物をあだにするかや」(仏様からいただいた物をムダにするのか)と何一つ粗末にしてはならないとお示しくださいましたが、蝋燭を作ろうと思ったきっかけは残蝋を捨ててしまうのが”もったいない”と感じたところからでした。

仏前で使うほとんどの洋蝋燭の原料は”パラフィンワックス”と呼ばれるもので石油系のワックスです。
パラフィンワックスは数多くある種類のワックスの基本として使うことができます。

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残蝋燭を溶かしてキャンドル専用の顔料で色をつけます。クレヨンでも着色できますが、クレヨン(特に安価なもの)などは粒子が荒いので芯が目詰まりし炎が途中で消えてしまったり、ススがでることがあるので専用のものが安心です。

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着色したロウをセルクルに流して固まったものをカットしてブロック状にしたり、

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「モールド」と呼ばれる”型”を使ったりすると、

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こんな感じになったりします。

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花にしてみたり、

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暇なときにぼちぼち作って楽しんでいます。

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(子供会などワークショップ用に雪だるま試作)

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(金香炉の型を取って作った「獅子香蝋」なんてどうでしょう?笑)

蝋燭の炎の揺らぎは、1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)と呼ばれ、星のまたたきや、波、人の心拍数、小川のせせらぎ、そよ風など、自然現象に見られるリズムで、心に快感と癒しをもたらしてくれるリズムだともいわれます。
仏前に座り、 揺らぐ蝋燭を見つめながらのお勤めは、確かに何とも心地よい気持ちになります。

最近では蝋燭を使った法要や素敵な催しをされているところもちょくちょく見受けられます。

image1 (8)「第60回中・四国地区仏教婦人会大会」の企画で、残蝋を集めて作った展示。

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同教区、光徳寺様降誕会。

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同教区、浄泉寺様報恩講「灯びの集い」。

お寺のサマースクールでの工作、光の演出イベント、チャリティ等々、残蝋を使って、自分なりにできることを模索しながら形にしていきたいです。
そして、日々粗末なことばかりをしてしまっている私ですが、何事も”仏様からの授かり物である”という視点は大切にしていきたいと思います。

最後に、先日汚れた銅の燭台のお手入れについて先輩に相談すると「ベビーオイルで磨け」と教えていただきました。
恐る恐る磨いてみるとピッカピカになりました。機会があれば自己責任にてお試しください。

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(右がベビーオイルで磨いたものです)

筆者 田坂英尊